

法律の「すき間」にある問題を明らかにし、
法改正やよりよい制度づくりへ
法律の「すき間」にある問題を明らかにし、
法改正やよりよい制度づくりへ
中田 孝成教授
法律に定めのない領域や制度上の課題を捉え、
改善の道筋を探る
行政書士として長年活躍してきた中田教授の研究内容は、法律に規定されていない事項や、制度・法律の不備によって生じる課題を明らかにすること。行政の判断や運用をそのまま受け入れるのではなく、法律に照らして検証し、法律の「すき間」にある問題を捉えています。また、法律と医療、経営など異分野が関わる領域や、複数の法律の間で生じる課題にも着目。現行制度の問題点を捉え、将来的な法改正や政策の見直しにつなげることを目指しています。

法律と行政の「すき間」にある問題を探り、
法制度の課題を明らかに
中田教授の専門は、行政法や公共政策、行政指導、許認可などです。行政が行う手続きや制度をそのまま受け入れるのではなく、「法律上、本当にそうなっているのか」「別の法律との間に矛盾はないか」という視点から、法律に規定されていない問題や制度の不備を明らかにしています。
「行政がやっていることだから正しい、というわけではないのです。行政書士として最前線で働いていたときも、『これ、おかしいんじゃないか』と思うことが結構ありました。そうした点を一つずつ調べて、法律ではどうなっているのかを確認していく経験が、研究につながっています」
中田教授が行政書士時代に多く扱っていたのが、さまざまな許認可や行政手続きです。行政から示された手引きや指導が、必ずしも法律そのものに書かれている内容とは限らないため、必要に応じて行政側に根拠を求めてきました。行政の不備を見つけて、裁判で争ったこともあるそうです。
「行政の手引きには、法律に書かれていることに加えて、行政側が『こうしてほしい』という内容も含まれています。そのため、すべてやらなければいけないと思い込まず、まず法律ではどうなっているのかを確認することが大切なのです」
中田教授の研究対象は、法律だけではありません。法律と医療、法律と経営など、法律が他分野と関わることで生じる課題にも目を向けています。例えば薬局では、患者の病状を確認する必要があるいっぽう、その内容を他の人に聞かれる環境では、個人情報保護法との関係が問題になる。異なる法律が求めることの間に生じる「すき間」をどう埋めるのかが、研究テーマの一つです。
「薬剤師法では患者さんの病状を確認する必要があります。けれども、オープンスペースで聞けば個人情報の問題が出てくる。では、どうすれば両方の法律に対応できるのか。こういう法律と法律の境目には、まだ考えるべき問題がたくさんあるのです」

「本当にそうなのか?」と疑うことから、
社会の仕組みを考える
中田教授が研究する法律上の課題は、私たちの日常生活とも無関係ではありません。例えば、道路交通法違反の取り締まりでは、反則金を支払うという選択肢があるいっぽう、事実関係を争うために裁判を受けることもできます。制度の仕組みを知らなければ、反則金を支払うことが当然だと思い込み、それ以外の選択肢に気づかないこともあるのです。
「違反をしたと言われたからといって、必ず認めなければならないわけではありません。事実関係に納得できなければ、争うこともできる。制度を正しく知っていれば、自分がどう対応できるのかもわかります。だからこそ、まず仕組みを知ることが大事なのです」
中田教授は現在、医療政策に関する研究にも取り組み、薬剤師法と個人情報保護法の関係や、行政指導における医薬品医療機器等法の問題などを論文にまとめています。さらに、実務で扱った事例を研究として残すだけでなく、弁護士から依頼を受け、裁判で使用する法解釈について意見書を書くこともあるのだとか。こうした研究や実務活動を通して、社会の具体的な問題に向き合い、現場で生じている法的な課題の整理や解決につなげている点も、中田教授の活動の特徴です。
「実際の案件で『これはおかしい』と思ったことを、そのまま終わらせるのではなく、なぜおかしいのかを法律から考えて、論文などの形に残しています。同じような問題が起きたときに、次の人が参考にできるようにすることが、私のミッションだと言えるでしょう」


中田教授が研究を通じて目指しているのは、制度そのものをよりよくしていくことです。すぐに法律を変えるのは簡単ではありませんが、まずは問題のある制度や運用を具体的に示し、その問題を行政や社会に問いかけていくことが重要だと考えています。
「最終的には、法改正や立法につながるような研究ができればと思っています。ただ、まずは今ある制度について、どこに問題があるのかをきちんと明らかにすることが大切。そうすることで、市民の声が行政に届くきっかけにもなると思っています」


答えを覚えるのではなく、
自分で考える力を身につける
中田教授の授業では、法律の知識を習得するだけでなく、学生自身が考え、自分の言葉で説明することを重視しています。法律の解釈や判例の読み方を学びながら、さまざまな立場から問題を考え、筋道を立てて意見を伝えるスキルを磨いていきます。
「一番大切なのは、自分の意見を持つことだと思っています。判例としては認められない考え方だったとしても、自分で考えて筋道が通っているなら、その意見には価値がある。なので、学生の考えそのものを否定することはしません」
授業では、中田教授が実際に経験した事例を題材にして議論することもあります。また、大学の食堂で起こる席取りの問題など、学生にとって身近なテーマを取り上げ、ルールや制度のあり方など、別の視点から考えることも。こうした身近な問題を多角的に掘り下げるなかで、自分とは異なる意見に触れ、自分の考えを深める機会にもなるそうです。
「学生には、『これは誰かが言っていたことなのか、それとも自分の意見なのか』をわけて考えてほしいと思っています。検索して出てきた答えをそのまま持ってくるのではなく、『なぜ自分はそう思うのか』を掘り下げる。間違っていても、自分なりに導き出した意見のほうが価値があると思っています」
大学生活では、興味を持ったことに一生懸命取り組み、自分に向いていること、向いていないことを知るのも大切です。中田教授は、さまざまな経験を重ねるなかで、自分で考える習慣を身につけてほしいと学生に伝えています。さらに、教員との距離が近い担任制も上手に活用し、丁寧なサポートを受けながら新しいことに挑戦し、その経験を通して自分なりの答えを見つけてほしいというのが、中田教授の願いです。
「まずは、やりたいことを見つけてほしいです。そのために大学生活があるのだと思います。何が向いているのか、逆に何が向いていないのかを知ることも、成長の一つ。いろいろなことに挑戦し、まわりの意見にも耳を傾けながら、自分なりに考える習慣を身につけてほしいですね」


中田 孝成 教授
関西大学経済学部を卒業後、リクルートを経て、2001年に行政書士として独立。同時に、神戸大学や京都大学など複数の大学院で学び、行政法や公共政策について研究を深める。また、阪神タイガース検定の企画にも参画。20年以上にわたり大学の非常勤講師を務め、2026年に大和大学へ。