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「探究的な学び」を切り拓き、
AI時代の数学教育の未来を探る

牧下 英世教授


教育学部 数学教育専攻
研究テーマ

ICTを活用した、
生徒の問いから深まる探究型の数学教育の研究

牧下教授は、高校数学における「探究型学習」の研究に携わり、ICTを活用した学びの可視化や支援ツールの開発に取り組んでいます。大切にしているのは、生徒が自ら問いを立て、試行錯誤を通して数学的思考を深めていくこと。技術の導入そのものよりも、「学びの設計」こそが重要だと考えています。さらに、折り紙やタイルといった身近な素材を使った体験型学習にも注目。数学をただ「解く」だけでなく、「探究し、伝える学び」へと広げる教育モデルの構築を目指しています。

AI時代に求められる、人間らしい思考力を
支える教育を実現したい

高等学校における「探究的な学び」を中心に、ICTを活用した数学教育のあり方を研究している牧下教授。探究の過程を支える手段の一つとして、ICTは図形の作成や、数学的な概念の視覚化などに有効だと語ります。
「例えば、三角形ABCを考え、辺BCを固定して頂点Aを『辺BCに平行に』動かしたとします。その際、重心や外心、内心、垂心、傍心といった特定の点がどのように動くのか、それらの点の軌跡を観察することが可能です。従来であれば黒板や紙面上では考察が難しかったこうした連続的な動きも、ICTを使えば直感的に理解でき、結果として生徒の深い学びにつながるでしょう」

近年、教育現場では探究学習の重要性がますます高まっています。中学校や高校でも、課外活動などを通じて積極的に探究的な学びが導入されるようになりました。牧下教授は、小学校、中学校、高校、大学の教員と連携しながら、課題学習や探究学習においてICTを活用し、どのように生徒の学びを支援できるかを検討する共同研究を進めています。
『高等学校数学科における課題学習の現状と授業モデルの提案』という共同研究の一環で、全国の数学教員を対象に質問紙調査を実施しました。回答を分析していくなかで、現場では課題学習を十分に活用しきれていない現状が明らかになりました。生徒に教科書の内容を確実に身につけさせることに尽力されている一方で、課題学習のための授業時間が確保しにくいといった実態が見えてきました。今後は、課題学習を実施するための工夫や実践事例をデータベース化し、現場の先生方をサポートしていくことが求められていると感じています」

こうした流れのなかで牧下教授は、生徒が自ら問いを立て、数学的に試行錯誤していく過程に着目し、どのような支援が学びを深めるのかを研究してきました。近年は、ICTによるデータ活用型教材や、AIの活用を視野に入れた活用した探究支援ツールの開発にも注力。探究の過程を可視化し、数学の授業のなかに「問いが生まれる学び」を根づかせる点に、この研究の特徴があります。
「研究を通じて、『探究的な学び』『数学的思考』『ICTの活用』を組み合わせた新しい教育モデルの構築を目指しています。知識の習得や入試対策にとどまらず、学習者自身が問いを見出し、データや数理的手法を用いて考え抜く力を育てることが重要だと考えています。数学を『解法を学ぶ場』から『問いを生み出す場』へと捉え直し、AI時代に求められる人間らしい思考力を支える教育を実現したいですね。この取り組みは、国際的に広がる探究型学習の潮流とも重なります。微力ながら、今後の教育改革に寄与できればと願っています」

AIと共に未来を切り拓いていける
数学教師を育成することが目標

従来の数学教育では、教師が教室全体の様子を見渡しながら生徒の理解度を感じ取り、板書や生徒への発問などのやり取りを通して学びを支えてきました。そうした対面指導ならではの強みを大切にしながら、近年はICTやAIを取り入れることで、生徒一人ひとりがどのような過程で考え、どんな発想にたどり着いているのかを、より明確に捉えられるようになりつつあります。
「正解を出すだけであれば、すでにAIが十分な役割を果たしています。重要なのは、その答えに至るまでの思考の道筋です。AIが学習履歴や試行錯誤の記録を分析できるようになれば、教師はそれを手がかりに新たな教材を構想したり、生徒ごとの理解の特徴に応じた関わり方を考えたりできます。人とAIが役割を分かち合いながら、探究の質を高めていく、その可能性にこそ、この研究のおもしろさがあります」

牧下教授は、AI活用における本質的な課題は「最新技術をどう導入するか」ではなく、「学びの設計をどう組み立てるか」にあると指摘します。
「現在は、ICTやAIを用いた探究支援ツールを授業で実際に使いながら、生徒の思考の変化や、それに対する教師の支援のあり方を検証しているところです。これまで現場の先生方が大切にされてきた『理解を定着させる授業』を確かな土台にしつつ、これからは『探究を後押しする授業』へと発想を広げていく必要があると考えています。そのための実践的な枠組みを整理することが、今まさに求められているのではないでしょうか」

牧下教授が見据えているのは、AI時代にふさわしい「探究型の数学教育モデル」を構築し、それを中学校・高校の教員養成へとつなげていくことです。ICTやAIの力を借りながらも、学ぶ主体はあくまで生徒自身であり、自ら問いを立て、他者と考えを交わしながら学びを深めていく姿を大切にしたいといいます。
「これまでの実践や教材開発で得られた知見を生かし、AIが『考えを広げ、問いを深める存在』として機能する授業を提案していきたいですね。その積み重ねを通して、AIと共に未来を切り拓いていける数学教師を育てることが、私の目標です


ICTやAIに頼らなくても、
探究のプロセスそのものを体験する方法は多彩

牧下教授によると、ICTやAIを活用しなくても「探究的な学び」を深めることは可能だといいます。例えば、紙を折って「数理」を探究する活動を「オリガミクス」と呼びます。これは筑波大学の芳賀和夫先生が提唱された言葉で、今では広く一般的に知られるようになりました。たった一枚の紙を折るという身近な活動でありながら、そこから長さや角度、比といった数学的性質に自然と気づき、自ら問いを立てて探究を進めることができるのです。
「オリガミクスには、数学のおもしろさが凝縮されています。紙を折ったり重ねたりするだけで、中点や比例、角度といった数学の考え方に自然と気づくことができる。折り目が不思議な位置に揃うと、『なぜこうなるのだろう』と疑問が生まれます。頭の中だけで考えるのではなく、実際に手を動かして紙を折る体験そのものが問いを生み、探究のきっかけになるのです。
算数・数学では、『手を動かして、考えることを楽しむ』活動をハンズオン・マスと呼んでいます。実は、このように紙を折って図形の性質を探究した課題は、江戸時代の和算や算額にも見られるものです。江戸時代の人々は、ハンズオン・マスを楽しんでいたのかもしれません」

牧下教授は、折り紙に関連する和算や算額の問題を調べ、昔の人々が実際に紙を折りながら、図形や比の関係を深く考察していたことを明らかにしています。
AIがすぐに答えを出してくれる現代だからこそ、自ら手を動かして図形に触れる体験が意味を持ちます。江戸時代の人々が算額を奉納したのも、紙を折ったり図形を調べたりする中で得られた数学的な気づきを、他の誰かと共有したいという自然な欲求があったからでしょう。自分自身で見つける体験と、それを他者と共有してさらに思考を深めていく文化。それこそが、私たちが探究学習を通して生徒たちに伝えたい数学の面白さなのです」

また牧下教授は、難しい図形の話も身近なタイルを例にして考えることで、理解しやすくなるといいます。
「例えば、同じ種類の『正多角形』で平面を隙間なく敷き詰めようとしたとき、それが可能なのは正三角形、正方形、正六角形の3種類しかありません。正五角形が敷き詰められない理由は想像しやすいかもしれません。そこからさらに、 『では、正多角形ではない“一般の三角形”ならどうだろうか』と問いを広げ、試行錯誤する過程で、三角形の内角の和が180度であるということ気づき、一般の三角形でも平面を敷き詰められることが見出せるのです。
身の回りのタイルから出発して、『なぜできるのか』『なぜできないのか』を考えていく過程で、具体的な図形から一般的な法則へと、数学的な視点は自然に広がっていきます。このように、折り紙や図形のタイル張りは、ICTやAIに頼らなくても、探究のプロセスそのものを体験できる有効な題材だと言えるでしょう。」

次に、正多角形の作図に目を向けてみると、これまでに学んだ方法では一般化できないことにも気づくでしょう。
「例えば正三角形ABCの作図では、小学校以来、まず線分ABを引き、その両端を中心とする半径ABの円弧の交点を頂点Cとする方法が用いられてきました。しかし、これを任意の正多角形へと一般化するためには、そうした局所的な作図ではなく、全体を捉えないと解は見つかりません。そこで、『単位円』を基準とし、その中心角を等分して円周上に頂点を定める手法へと発想を切り替える必要があるとわかるのです。
単位円を用いた考え方は、そのまま高校数学で学ぶ『三角関数』や『複素数』、あるいは『一次変換』などの数学の構造化へと発展していきます。このように、折り紙や図形のタイル張りといったハンズオン・マスによる活動は、数学の背後に潜む多様な『構造』を自ら見出し、深く考察するきっかけとなります。
ICTやAIに頼らなくても、こうした『題材』を通じて探究のプロセスそのものを体験しつつ、小中学校の算数・数学から高等学校の数学へと学びを鮮やかにつなぐことができます。それこそが数学教育の醍醐味だと確信しています」

「大和大学教育学部の数学教育専攻で、数学を『解く』ことから数学を『探究する』へ、さらには数学を『伝える』『つなぐ』学びへと広げ、数学の世界の見え方が変わる瞬間をともに味わいましょう。将来、中学・高校の数学教員を夢見る皆さんが、次世代を育成する先生として、ここから大きく羽ばたいていくことを心から願っています」

プロフィール

牧下 英世教授 博士(教育学)

教育学部 教育学科 数学教育専攻

中学校・高等学校の数学科教諭として28年間にわたり教壇に立つ。筑波大学附属駒場中・高等学校ではSSH(スーパーサイエンスハイスクール)の研究開発に従事し、先進的な理数教育の実践・実証研究の機会を得た。その後、芝浦工業大学教授、同大学院教授を経て、現在は大和大学にて数学(解析学、確率・統計学)および数学教育の研究・教育を担当している。

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