物理学が人間の世界観を変えたように、
ITの力で社会にインパクトを与えたい
物理学が人間の世界観を変えたように、
ITの力で社会にインパクトを与えたい
名倉 賢教授
理論物理学から情報科学まで、
さまざま領域にわたる研究
「情報科学を活用した政策の評価・立案」「自律分散的なネットワーキングの提言」「超弦理論のミラー対称性」「熱統計力学的モデルを用いた金融市場の分析」など、幅広い領域で研究や実務にあたってきた名倉教授。大学教授として新たなキャリアをスタートした今、これまでに培った知識やスキルを活かし、ITをキーワードにして学生たちを巻き込みながら新たな研究をスタートさせようとしています。
物理から金融、ITまで、
幅広いジャンルで実績を重ねてきた異色の経歴
大学院で博士号を取得した後、理論物理学の研究を行っていた名倉教授。その後、民間企業に就職して財務・金融の道に進み、さらに大手電機メーカーの研究所で新しいITコンセプトの研究にも携わりました。その後、大手電機メーカーから内閣官房行政改革推進本部事務局へ3年間出向し、データ分析を活用した政策評価・立案に携わった実績も。
物理、金融、ITと、幅広いジャンルで豊富な実績を誇っている点が、名倉教授の強みだと言えるでしょう。
「これまでのキャリアパスからもわかるように、『専門分野はコレ』とひとつに特定することができません。多岐にわたるキャリアこそが、私の“専門”と言えるかもしれないですね」
名倉教授のベースとなる理論物理学の研究テーマは、「超弦理論のミラー対称性」です。超弦理論とは、素粒子は“点”ではなく“ひも”であり、“ひも”が振動することでさまざまな粒子の性質が決まるという考え方のことです。
「難しくてわかりにくいと思うのですが、超弦理論を用いることで宇宙の構造やメカニズムを解き明かすことが可能に。多くの研究者が研究を進めており、ノーベル物理学賞を受賞した日本の著名な博士も、超弦理論の提唱者の一人として知られています」
また、ミラー対称性とは2つの異なる世界が、見た目は違っていても本質的には同じ性質を持っているということを指します。
「私は共同研究を通して、『ミラー対称性の概念は一般次元でも有効である』ということを示してきました。通常、私たちが考える次元は3次元ですが、数学や物理学では4次元やそれ以上の次元の世界を考えることがあります。ミラー対称性は、こうした異なる次元においても成り立つのです。ただ、ミラー対称性は超弦理論のなかでも特に難しい概念のひとつなので、理解するのはなかなか難しいかもしれません」
研究領域が多岐にわたるからこそ、
幅広い可能性が広がっている
名倉教授は今年4月、大和大学に着任したばかり。過去の経験をもとに、これから研究テーマを絞り込んでいく予定だそうです。
「大手電機メーカーのシンクタンク時代は理論物理学から離れて、IoTの世界観を確立しようというテーマで研究を行っていました。モノをインターネットにつなげることで、新たな価値を創造することが可能に。すでにIoTは私たちの生活のさまざまなシーンで活用されていますが、まだまだ社会を大きく変えられるチャンスがあると考えています。IoT分野は学生もとっつきやすく、楽しみながら知識やスキルを深めていけるでしょう」
また、内閣官房行政改革推進本部事務局にいた頃は、すでに進められている行政事業の評価業務に参画していた名倉教授。科学的なデータや事実をもとに、より効果的な政策を手がける「ERPM(Evidence-Based Policy Making)」という手法を用いて、政府が行っている調達のデータ分析に携わっていました。
「政府が民間企業からモノを購入したデータを収集、分析し、エビデンス(科学的根拠)に基づいてコスト削減などの提言を行うことが、当時の私のミッションでした。ERPMを軸に、情報科学を活用して政策を評価・立案していく研究を深めていくのも、おもしろいかもしれません」
そのほか、名倉教授は熱統計力学的モデルを用いて、金融市場を分析する研究を行っていたこともあります。
「『温度=市場の不確実性やリスク』『粒子=投資家や資産』『エネルギー=価格の変動や資産の価値の変化』といったように、熱統計力学の概念を金融市場に当てはめ、物理の考え方を使って金融市場の動きを理解しようとする試み。私の研究領域が多岐にわたっているからこそ、学生たちにもさまざまな可能性が広がっていると言えるでしょう」
ITは今後、今以上に
人々の暮らしや社会を大きく変えていく
長年ひとつの研究を追求し続ける教授が多いなか、幅広い領域で実務を通して活躍してきた名倉教授。次々に未知のフィールドに飛び込み、ゼロから新しいことに挑戦していく原動力は何なのでしょうか。
「私の場合、何か明確な目標を掲げて新たなチャレンジをしてきたわけではありません。そのときそのときの周囲の期待に応えながらも、自分がやりたいことを探してもがいてきただけなんですよ」
名倉教授が、今一番興味を抱いているのはIT領域。無限の可能性が広がっている点に、魅力を感じているそうです。
「物理学の究極のテーマは、“世界観をつくること”だと考えています。実際、ニュートンやコペルニクス、アインシュタインは、人間の世界観を一変させました。それと同じように、ITにも私たちの世界観をひっくり返す力があると言えるでしょう」
大和大学で教授としてのキャリアをスタートしてからも、新しいことに挑んでいる名倉教授。現在は、VRについて自主的に研究を行っている「VRチーム」の指導を担当しています。
「といっても、私は何もできないので、機材の購入などをサポートしているだけ。学生たちは主体的に学びを深め、自分たちがやりたいことを具現化しています。つい先日は、保健医療学部からの依頼で、リハビリにVRを導入するために、バーチャルプールを制作していました。VRやAIなど画期的な技術が続々と誕生しているなか、ITは今後、今以上に大きく人々の暮らしや社会を変えていくはず。ぜひ、大和大学の情報学部で多くの学びを得て、一緒に人々の世界観に変革をもたらしましょう」
名倉 賢 教授
東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。総合研究大学院大学でのポスドクを経て、金融庁の専門検査官へ。その後、大手の損保会社や電機メーカーへ勤務。電機メーカー時代には、内閣官房行政改革推進本部事務局への出向も経験。2024年に、教授として大和大学へ。