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人間にとっての会計の本質を明らかにし、
豊かで幸福に満ちた社会の実現へ

橋本 寿哉准教授


政治経済学部 グローバルビジネス学科
研究テーマ

複式簿記の歴史研究と
グローバル企業の財務分析

現代会計の基礎として知られる複式簿記の歴史研究と、グローバル企業の成功の秘密を財務的な側面から明らかにする研究に携わっている橋本准教授。大手旅行会社で国際財務のスキルを習得し、複数社で経理・財務・経営企画部門の責任者を長年務めた経験があります。それらを活かして、人間にとって会計とは何かを解明し、会計を使って豊かで幸福に満ちた社会を実現する方法を見いだそうとしています。

現代会計の基礎である複式簿記は、
約600年前の中世イタリアで誕生

橋本准教授の研究テーマのひとつは、会計の歴史研究。なかでも、お金の動きを「借方」と「貸方」という2つの側面から記録する、複式簿記の誕生の歴史について長年研究を行っています。
「現代会計の基礎である複式簿記は、約600年前に中世イタリアで誕生したとされています。それ以来、ほとんどその姿かたちを変えていないことに驚きを隠せません。複式簿記の歴史を研究することによって、簿記や会計が現代社会で果たす役割を明らかにしたいと考えています」

ビジネスに欠かせない会計というものが、もともとどういった背景から生まれてきたのかを、中世イタリアで記録された会計帳簿から明らかにしようとしている橋本准教授。実際にイタリアの古文書館を訪れ、中世イタリア商人の会計帳簿を調べたといいます。その研究成果をまとめた『中世イタリア複式簿記生成史』(白桃書房)は、2010年度の「日本会計史学会学会賞」を受賞しました。
「中世イタリア商人の会計帳簿の記録を見て感じたのは、数百年前の人たちと現代人とで、やっていることにさほど違いがないということ。つまり、中世イタリアで誕生した複式簿記は、非常に完成度が高いと言えるでしょう」

橋本准教授は、近世日本の会計にも注目。実は、江戸時代の商家で複式簿記とよく似ている簿記法が用いられていたことが判明しているそうです。
「そこで、中世イタリアと近世日本という時代も場所も異なる舞台で、なぜ同じような簿記法が誕生したのかを探る比較研究に着手。まだ誰も手をつけていない研究分野ですが、その理由を紐解くことで会計の本質に近づけるのではないかと考えています。中世イタリアはキリスト教の影響で儲けをネガティブに捉える傾向があり、商人たちは自分たちの活動が社会悪ではないということ神に示すために複式簿記を生み出したのではないかと推測。その証拠に、中世イタリア商人の会計帳簿には、『神の名において』という言葉が何度も登場するのです。いっぽう、江戸時代の商家は先祖から受け継いだ商いをしっかり後世へと受け継ぐために、独自の簿記法を編み出したのではないかと考えています。いずれも、自分たちの稼ぎのための簿記ではない、という点がとても興味深いです」

グローバル企業の財務分析から
日本再生のヒントを探る

橋本准教授のもうひとつの研究テーマは、グローバル企業の財務分析。発展を遂げているさまざまなグローバル企業の成功の秘密を、財務的な側面から明らかにすることを目指しています。
「大きく発展する企業があるいっぽう、破綻や倒産をする企業もあります。企業が成長したり衰退したりする要因を、長期間にわたる財務諸表の時系列分析からあぶり出す研究です」

そんな橋本准教授は、大手旅行会社時代にロンドンに派遣され、グローバルビジネスの最前線で国際財務のスキルを習得しました。日本に戻ってからは、本社の経理部や財務部で活躍。さらに、医療機器メーカーに転職して株式公開(IPO)を成功へと導き、その後も3社を渡り歩いて、企業経営に深く関わってきました。
株式公開や上場準備などの実務に携わったほか、経理・財務・経営企画部門の責任者を長年務めた実務経験を、研究にダイレクトに活かせることが、私の強みだと言えるでしょう」

企業を財務的な側面からより的確に分析するために、新たな分析手法を模索しているという橋本准教授。会計とファイナンスは別物なのですが、それらを融合させたアプローチや、近年高い注目を集めている生成AIの活用も視野に入れているそうです。
「近年、世界における日本経済の存在感は低下し続けています。日本企業の競争力もしかり。世界的に発展を遂げているグローバル企業の財務分析から、日本の経済や企業の再生につながるヒントを見いだしたいと考えています」

“ビジネスの共通言語”への理解を深め、
真のグローバル人材へ

橋本准教授は、複式簿記を中心とした会計の歴史とグローバル企業の財務分析といった、まったく異なる研究テーマを同時に追究。その目標やゴールについて話を伺いました。
「目指しているのは、人間にとって会計とは何かを明らかにすること。さらには、会計の歴史研究やグローバル企業の財務分析を通して、豊かで幸福に満ちた社会の実現につながる会計の活用法を提言していきたいと思っています」

簿記や会計に、「単なるビジネスツール」「細かいルールを覚えるだけの退屈なもの」というイメージを抱いている人も多いかもしれません。けれども、橋本准教授の研究に関わることで、学生たちは簿記や会計の新たな魅力に触れることができるでしょう。
簿記や会計は、長い歴史を経て発展してきた完成度の高いビジネスツールです。その仕組みを知っておくことで、社会や経済への理解を深めることできるようになり、自分の視野を広げる手助けになるということを、学生たちに知ってもらいたいと考えています」

また、グローバルなビジネス社会を生き抜くためには、“ビジネスの共通言語”とされる簿記・会計の知識は必要不可欠です。
『将来役に立つから』という理由で簿記・会計を教えるのではなく、その歴史やこれからの会計のあり方を含めて、さまざまな側面から理解を深められる講義を用意しています。学生たちには、社会や経済の仕組み、企業やビジネスのあり方をはじめ、何に対しても興味と関心を持ち、探求心や主体性、行動力を大切にしながら学んでもらいたい。真のグローバル人材として、これからの社会を担っていきたいという意欲的な学生たちの成長をサポートしていきたいですね」

プロフィール

橋本 寿哉 准教授

政治経済学部 グローバルビジネス学科

東京外国語大学でイタリア語を学び、卒業後は大手旅行会社に就職。入社6年目にロンドンに派遣されたことがきっかけで、簿記・会計のおもしろさを知る。その後、4社で経理・財務・経営企画部門の責任者を長年務め、大東文化大学経営研究所の客員研究員などを経て、大和大学へ。

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