

筋肉の有用性を明らかにし、トレーニングやリハビリテーションの効果を最大化
筋肉の有用性を明らかにし、トレーニングやリハビリテーションの効果を最大化
岩下 篤司教授
効果的なトレーニング方法やリハビリテーション手法を開発する研究
生体医工学やスポーツ予防プログラム、整形外科術後のリハビリテーションに関する研究を手がけている岩下教授。なかでも、「筋電図」や「Motion Analysis(モーションアナリシス)」を用いた、よりよいトレーニング方法やリハビリテーション手法の開発に力を注いでいます。特に、教授が注目しているのが股関節内転筋。その動きやメカニズムの研究を深めながら、トレーニングやリハビリテーションの新たな可能性を模索しています。

「筋電図」などを用いて、
筋肉の動きやメカニズムを解明
岩下教授は、生体信号の解析を通じて、効果的なトレーニング方法やリハビリテーション手法の開発に取り組んでいます。特に「筋電図」や「Motion Analysis(モーションアナリシス)」を用いて、筋肉の動きやメカニズムを詳しく調べ、そのデータをもとに新しいアプローチを模索。トレーニングやリハビリテーションの効果を最大限に発揮するためには、筋肉の特性や身体の動きに対する深い理解が必要だと語ります。
「病院に勤めていた若手の頃、ケガで入院していた若い患者さんに、通常のリハビリテーションにプラスしてトレーニングを実践してもらったものの、足に筋肉がつかず逆に細くなってしまうことがあったんです。その原因を探っていくと、寝たきりの状態で入院生活を送っていたからだとわかりました。若い人が特別なトレーニングをしなくても筋肉を維持できているのは、日常生活で6000~8000歩ほど歩いているから。しかし、ケガをして入院すると歩く量がゼロに近くなり、その結果、プラスαのトレーニングを実施しても十分な効果が得られなかったのです 」
そこで岩下教授は、まず日常生活で行う運動量と同じ程度の運動をトレーニングに取り入れることが大切だと考えました。ところが、6000~8000歩ほど歩くという運動量をトレーニングに置き換えると、足上げ運動なら約3000回、スクワットなら約500回しなければいけないことがわかったのです。
「現実的に、リハビリテーションの一環としてそれだけのトレーニングを毎日行うのは大変です。そんななか、私が注目したのが自転車運動でした。自転車を30分こぐだけで、1万歩歩くのと同じ運動効果が得られることが判明。しかも、自転車はサドルに体重を預けるため、足への負担が少なく、手術後のリハビリテーションにとても適していたのです」


しかし、研究を進めていくなかで、歩きと自転車では使う筋肉が違うということがわかりました。歩くときに主にふくらはぎの筋肉を使いますが、自転車をこぐときは太股の筋肉がメインになるのです。
「この結果から、自転車運動とは別にふくらはぎにアプローチするトレーニングも必要であることがわかりました。また、筋肉の周波数解析を行った結果、瞬発力がある筋肉と、そうではない筋肉があることが判明。このように、筋肉の動きやメカニズムを理解することが、患者さんお一人おひとりに適したトレーニング方法やリハビリテーション手法の開発につながるのです」


新たなトレーニング方法や
リハビリテーション手法の開発を目指す
現在、岩下教授は“自転車エルゴメーター運動”における生体活動の分析に注力しています。自転車エルゴメーターとは、固定された自転車型のトレーニング機器を用いた運動のことで、その最中の筋肉の活動を詳しく調べています。
「特に私は、股関節を内側に引き寄せる役割を持つ、股関節内転筋に注目しています。自転車エルゴメーター運動に関する研究は多く行われていますが、股関節内転筋にスポットライトを当てた研究はほとんどありません。この筋肉の有用性を証明し、自転車運動だけでなく、日常生活の動作にも与える影響を明らかにしたいと考えています」
岩下教授によると、この研究のおもしろさは「未知」を「既知」にできること。研究を通じて新たな知見を得ることは、トレーニングやリハビリテーションの効果の最大化につながるため、高いモチベーションで取り組むことができるそうです。
「この研究は公益財団法人の外部研究資金に採択され、助成金を受給することができました。加えて、理工学部とコラボレーションすることで、研究体制が改善され、よりよい環境で研究を進められるように。その結果、さらに集中して研究に打ち込めています」


股関節内転筋に着目した研究はまだ少ないため、新たな発見があるたびに岩下教授はその内容を海外で発表したり、論文を通して発信したりしています。もしかしたら、教授の発見がきっかけとなり、トレーニングやリハビリテーションの新常識が生まれるかもしれません。
「生体医工学は、医学に工学技術を取り入れ、生命現象を明らかにするだけでなく、診断や治療に有効な手段を提供する新しい分野です。私は特に、筋肉の活動を通じて人間の動作的特徴を発見し、よりよい治療法の提供を目指して研究を進めています」


他学部とコラボレーションして
研究を進められるのが大きな魅力
今後は、ゼミ生たちをもっと巻き込んで研究活動をさらに活性化させたいと考えている岩下教授。学生たちには柔軟な発想を持ち、多様な意見を尊重しながら研究を進めてもらいたいと語ります。
「私の研究に参加することで、学生たちは『人の活動を科学する』ことに対する興味を深め、知的好奇心を満たすことができると考えています。また、ゼミ活動を通じて同じ研究チームの仲間と協力することで、連帯感や問題解決能力を高め、人間力を育むことができるでしょう」
また、大和大学の大きな魅力は、他学部とコラボレーションができること。岩下教授も理工学部と連携して、自転車エルゴメーター運動の生体活動の分析を行っています。
「計測の技術を追求したい理工学部と、解析のためのデータを必要とする私たちが協力することで、より大きな効果を得ることができると確信しています」


学生一人ひとりの意見を尊重し、フレキシブルな発想を大切にしながら研究を進めていける風土も、大和大学の魅力のひとつだといいます。
「学生たちには、自分の力で未来を切り拓く勇気とエネルギーを持ってほしいと心から願っています。たとえ失敗しても、それを糧にして成長すればいい。知識は、成長や夢を実現するためのパスポートです。やり抜く気持ちと行動力さえあれば、どこにでも、どんな世界へも行けるでしょう」



岩下 篤司 教授
熊本の専門学校を卒業し、理学療法士として京都の病院に就職。ある学会に参加したことがきっかけで、働きながら京都大学の理学療法に関する研究会に所属することに。その後、奈良県の病院勤務を経て、2014年に大和大学の准教授となり、現在は教授として活躍している。