人間工学に基づいたロボット開発で
医療福祉業界の課題解決を目指す
人間工学に基づいたロボット開発で
医療福祉業界の課題解決を目指す
北澤 雅之教授
患者さんのリハビリ支援機器や
病院の業務支援ロボットの開発
人間工学を用いてプロの技の極意や人間の機能を明らかにし、機械やロボットに同じ動きをさせる研究を手がけている北澤教授。これまでに患者さんのリハビリ支援機器の試作機を完成させ、現在は病院の業務支援ロボットの開発に挑んでいます。画像処理技術や機械学習といった最先端技術に触れながら、モノづくりの醍醐味を味わえる研究。将来的には、医療福祉業界の業務効率化に大きく貢献できる可能性があります。
人間が機械に合わせるのではなく、
機械が人間に合わせる
人間工学とは、身体の仕組みや動きなどを理解し、それに合わせてモノづくりや環境づくりを行う学問のこと。「人間工学に基づいた疲れにくいイス」など、身近な商品のセールスポイントとして使われることも多いので、何となくその意味を知っている人もいるでしょう。北澤教授はそんな人間工学を活かし、医療福祉業界で役立つ機械やロボットを開発しています。
「人間工学を取り入れたモノづくりの特徴は、人間が機械に合わせるのではなく、人間に合わせた機械をつくれること。リハビリのプロである作業療法士さんの機能訓練の手技をデータ化して機械に再現させ、膝関節のリハビリ支援機器の試作機を完成させました。これが実用化されれば、『リハビリ施設に通うのが大変』という方々が、自宅でリハビリをしやすくなるでしょう」
北澤教授は現在、全方位移動が可能な業務支援ロボットの開発にチャレンジしているところ。具体的には、自走しながら病室をまわって患者さんの点滴の残量を自動でチェックするロボットを手がけています。
「車輪が前後左右に自由に動く“オムニホイール”という特殊な車輪を採用し、小回りが利く足回りを実現しました。ロボットの目となるカメラには、点滴の残量を識別できる機能が必須。現在、画像処理技術や機械学習を用いて開発を進めているところです」
北澤教授にとって、この研究のおもしろさはプロの技を機械に置き換えられることだとか。例えば、作業療法士が患者さんの膝を曲げたり、伸ばしたりするスピードや角度などのデータ解析し、モーター制御を通して同じ動きを機械で再現していくそうです。
「実際に手を使って機械やロボットを組み立て、モノづくりのおもしろさを味わえるのも魅力。機械からマイコン、画像処理まで、幅広い領域の知識やスキルを身につけることができるのもできるのもポイントです」
研究のゴールは、医療や福祉に携わる方々の
業務負担を軽減すること
北澤教授が医療現場の業務支援ロボットの開発に興味を持ったきっかけは、病院で入院したときのこと。病気を見つけたり、治療したりする医療機器は進化しているのに、治療後のケアは昔ながらの人海戦術に頼っていると気づいたそうです。
「この研究のゴールは、医療や福祉に携わる方々の業務負担を軽減すること。そうすることで、患者さんとじっくり向き合える時間を創出したいと考えています。コミュニケーションを通して患者さんの不安な気持ちを和らげるという行為は、人にしかできません。私の研究は、医療福祉現場の業務効率化を実現できるだけでなく、その先にいる患者さんの満足度アップにもつながるのです」
生成AIなどの最先端技術を組み合わせることで、医療現場をサポートする業務支援ロボットの可能性はさらに広がるといいます。
「例えば、ドクターや看護師などの知識をデータベース化し、生成AIや自動音声説明の技術を用いれば、患者さんに寄り添って質問や悩みに対応できるロボットを開発することができるでしょう」
そういった新しいチャレンジに挑むうえで大切なのは、アイデアや技術力だけではないと北澤教授。研究に協力してくれる、医療福祉現場の方々との信頼関係が重要なのだとか。
「この研究は、ドクターや看護師、作業療法士といった各分野の専門家の力が必要不可欠。日々の業務で忙しいなか、快く協力してもらおうと思ったら、研究への熱意をアピールし、共感していただかなくてはいけません。また、開発した機器やロボットを医療福祉現場に導入するためには、厚生労働省の許認可が必要になります。そのあたりの知識はまったく有していないので、今後はメーカーと連携しながら産学連携の取り組みにも注力していきたいです」
理論を学ぶだけでなく、
モノづくりを体現できるのが大きな魅力
北澤教授の研究室で学ぶ2年生は、コースに描かれた線に沿ってロボットを走らせるライントレースの実験を行っています。ロボットが色を識別して自動で進む様子を通して、センサーの実力を知ることができるでしょう。3年生になると、センサーの値を活用するフェーズへと移行。ロボットがラインから外れた際などに、調整や修正するスキルを身につけます。
「今の4年生は、画像処理技術や機械学習を活用し、点滴パック内の液体の残量を把握するロボットの目について、卒業研究を進めているところ。機械やマイコン、画像処理など、担当に分かれてモノづくりにチャレンジしています」
大学全入時代を迎えた今は、何の目的も持たずに進学してくる学生も多いでしょう。ただ、大学はあくまで学びの環境を提供する場にしか過ぎません。北澤教授によると、研究を進めていくうえで大切なのは、受け身にならずに自分で自分の道を切り開いていく姿勢なのだとか。
「アメリカの第35代大統領のジョン・F・ケネディは、大統領就任のスピーチで『国があなたのために何をしてくれるかではなく、あなたが国のために何ができるかを考えようではありませんか』とアメリカ国民に語りかけました。受け身ではなく自分から主体的に動くことが大切だと訴えたケネディのメッセージを、私はずっと大切にしてきました」
大学では目的意識をしっかり持ち、自ら率先して授業や研究に打ち込むことが大事だと語る北澤教授。しかも、大和大学には保健医療学部があるので、医療福祉業界に貢献できる機械やロボットの研究や開発を進めるにあたって、その道のプロから意見がもらえるのが大きな特徴だといいます。
「理論を学ぶだけでなく、モノづくりを体現できる理工学部や私の研究室で、『あったらいいな』といったあなたのアイデアを具現化していきましょう」
北澤 雅之 教授
明治大学で流体についての研究を手がけ、卒業後は造船所に就職して設計業務に携わる。7年ほど勤めた後、大学職員にキャリアチェンジして、実験などのサポート業務を経験。その後、博士号を取得し、和歌山工業高等専門学校の准教授や教授を経て、2024年に大和大学へ。