

“混ぜる”技術の最適化を通して、
日本のモノづくりの発展に貢献したい
“混ぜる”技術の最適化を通して、
日本のモノづくりの発展に貢献したい
髙田 一貴教授
熱流体の移動現象、
ミキシング技術の最適化、
流体の数値シミュレーション
髙田教授は、モノを混ぜる際に使われるミキシング装置をはじめ、さまざまなモノづくりに欠かせないプロセス装置の高性能化や高効率化をめざす研究を手がけています。特に注目しているのは、産業のコアテクノロジーとも言える“混ぜる”技術。ミキシング装置に取り付ける独自のワイドパドルを開発し、流体の数値シミュレーションや実験による検証を通して、ミキシング装置のパフォーマンスの最大化を目指しています。

目指しているのは、
“混ぜる”技術の高性能化や高効率化
産業界では、熱や物質の移動をともなう流体(水や空気などの液体、気体の総称)を扱う機械がたくさん活躍しています。自動車や航空機、船舶をはじめとする、さまざまなモノづくりの現場はもちろんのこと、発電所や上下水道施設でも流体を扱う機械が欠かせません。身近なところではパソコンに内蔵されている冷却システムも、そのひとつ。長年にわたって、産業界の発展の一翼を担う研究に携わってきたのが、理工学部の髙田教授です。
「私の研究室では、熱や物質の移動をともなう流体の動きを予測するために、コンピュータを用いた流体の数値シミュレーションに注力。なかでも、化学・食品・半導体といった産業プラント設備のミキシング装置や熱交換器を対象とし、その高性能化や高効率化の実現を目指して研究を進めています」
ミキシング装置や熱交換器は、高温や高圧といった特殊な環境下で用いられることが多く、そのため、流体の動きや温度などを実際に計測することができないケースがほとんどだそうです。
「そういった厳しい環境での研究を支える技術が、コンピュータによるシミュレーション。外から見ることができない装置や機械のなかの液体や気体の流れ、温度などの情報を、詳細に把握できるのが特徴です」


髙田教授が得意とするのは、材料を混ぜるミキシング装置のシミュレーション。ミキシング装置とは、原料を混ぜ合わせる際などに使われる機械で、その性能が製品の品質やプラントの生産性を大きく左右するのだとか。
「“混ぜる”というプロセスは、モノづくりの現場では欠かすことのできない作業です。近年は、粘性が高い液体や固体など、これまで混合させたことがない物質同士の組み合わせによって新素材の開発に挑むケースが増えてきており、ミキシング技術そのものが高度化。“混ぜる”という非常にシンプルな技術ですが、産業のコアテクノロジーと言っても過言ではないでしょう」


装置のパフォーマンスの最大化と同時に、
技術伝承に改革をもたらしたい
ミキシング装置の内部には、回転しながらモノを混ぜ合わせるインペラーと呼ばれるパーツがついています。高田教授は、従来のインペラーの性能を格段に向上させる新しいコンセプトを開発。シミュレーションや実験による検証を通して、理論と実践の両面からそのミキシング性能の可視化に挑みました。
「ミキシングのスピードや均一性では、従来のパドルの2倍ほどの効率が認められました。伝熱性能や表面吸収特性などでも、従来のパドル以上のパフォーマンスを実現。幅広い業界のミキシングに関する課題に対応できるワイドパドルには、高い将来性が期待できるでしょう」
熱や物質、流体に関する知見は応用範囲が広く、いろいろな課題の発見につながるのだとか。現象を観察して課題をあぶり出し、解決へとつなげていけるのが、この研究のおもしろさだといいます。
「これまでは小型の実験室ベースで研究を進めてきましたが、今後はより大きな規模でシミュレーションや実験を行っていきたい。実際にさまざまなモノづくりの最前線で活躍しているミキシング装置と同じ規模で検証をくり返し、新しいコンセプトに基づく新型インペラーの実力を証明したいと考えています。また、産業界では性質が異なる材料を混ぜるニーズが拡大中。業界の変化にフレキシブルに対応し、今後も新しいチャレンジを続けていきます」


髙田教授の短期的な目標は、さまざまな液体や固体、気体を効率よく均一に混ぜる技術の提供を通して、ミキシング装置などの性能アップや効率化を実現すること。そうすることで、世界に通用する高い競争力と付加価値を有する、日本のモノづくりに寄与したいと考えているそうです。
「私にとってこの研究の真のゴールは技術伝承に改革をもたらすことです。モノづくりの最前線では、まだまだベテラン技術者の知見や経験に頼る部分が多く、ノウハウが体系化されていない傾向が見られます。若い技術者たちが自らコンピュータシミュレーションなどを駆使し、主体的に現場の課題を解決していけるようになるのが理想です」


1年で成果を出せる指導を心がけ、
即戦力として活躍できる人材を育成
大手環境プラントメーカーの第一線で、25年以上にわたって装置の開発や設計に携わった実績がある髙田教授。産業界のリアルを熟知しており、実践に役立つ知識やスキルを学べるのが大きな特徴です。
「私の研究室では、熱流体シミュレーションソフトのアカデミックライセンスを導入したワークステーションで流体解析に取り組める環境を整えています。また研究室の所属学生にはシミュレーションソフトにおいて近年広がりを見せている学生ライセンス版も取得してもらい、自分のパソコンを使って気軽に流体解析を体験できるようにしています。また、企業との共同研究に注力しているのも特徴のひとつ。企業が抱えるさまざまな課題に触れ、ソリューションを見いだすプロセスを体験することで、企業がどのようにして問題解決をはかっているか、流体解析の技術がどう役立つのかなどを、肌で感じることができるでしょう」
研究は本来、じっくり時間をかけて地道に取り組むもの。国公立大学大学院への進学を特色とする大和大学では、自学で本格的な研究に関われる期間は約1年程度です。小さくても良いので1年で成果を出せるよう、また新たな知見が見出せるよう、大学院へ進学する学生にとっても、研究の目標や研究成果の出口を定められるような指導を心がけているそうです。
「目指しているのは、大学を卒業して就職した際に、即戦力として活躍できる人材を育成すること。理工学部には、私を含めて企業の第一線で開発や設計の実務にあたってきた教員がたくさんいるので、産業界が必要としているソリューションを提案するノウハウやスキルを身につけられると思います」


社会に出て即戦力として活躍できる人材を目指すうえで、理想的な環境が整っている理工学部。髙田教授は、恵まれた環境のもとで自ら考えて主体的にアクションを起こして結果を出す、という学生たちのチャレンジ精神に期待を寄せています。
「リベラルアーツや専門科目を習得することで多くの学びを得て、大きく成長してください。また、学生時代に、何をしたいか自分がどのようになりたいかを見極め、ぜひ夢や目標を持ってもらいたいと考えています。なぜなら、夢や目標は自分を成長させる原動力になるものだから。『やりたい』『なりたい』という想いを大切にしながら行動を起こし続けていれば、理想はいつか必ず現実のものとなるでしょう」



髙田 一貴 教授
九州大学大学院で工学博士号を取得。大学で教育・研究者となることも考えたが、工学を実務に役立たせたいとの思いから、最終的に大手環境プラントメーカーに就職を決める。25年以上現場の第一線で活躍した後、企業における実務経験を後進に伝えたいと思うように。呉工業高等専門学校の教授を経て、大和大学の教授となる。