質の高い教育をみんなに。
民主主義を豊かにする学校教育を創造。
質の高い教育をみんなに。
民主主義を豊かにする学校教育を創造。
舟橋 秀晃教授
授業のクオリティを高める、
国語教育学。
国語教育学とは学習指導の枠を超え、日本語を身につける際に生じるさまざまな問題を取り上げて、言葉の育ちや言葉の文化享受のあり方を理論・実践の両面から解明する学問のこと。なかでも、舟橋教授は説明的文章学習指導論にスポットを当て、自身の教員経験を活かしながら、誰もがクオリティの高い国語の授業を展開できる方法を探っています。
生徒たちが主体的に
学習に取り組める場をつくることが大切
説明文や評論文を読んで、「筆者の言いたいことは何か?」を考える。これは、日本の国語教育の当たり前の1シーンです。けれども舟橋教授は、そういった指導に異を唱えています。
「日本では長年、書かれてあることを書かれてある通りに読むという国語教育をしてきました。けれども、筆者の思考をたどりながら読むだけでは、『本当にそう言えるか』『なぜそれが妥当と言えるか』と論理的に確認しながら読む力を身につけることはできません」
国語教育学のなかでも、主に説明的文章指導論の研究を行っている舟橋教授。説明文や評論文を読む際、生徒たちは文章の意味がわからないと、すぐ「つまらない」「おもしろくない」「読みたくない」という反応をしてしまいがちなのだとか。
「だからといって投げ出してしまうのではなく、わからないなりに何度も読み返したり、周囲に意見を求めたりしながら、粘り強く文章と向き合うことが大事。そのためには、生徒たちが『わからないことが楽しい』と思えるような授業をするべきだと考えています」
また舟橋教授によると、近年、授業のユニバーサルデザイン(UD)が、本来の主旨からずれた形で国語の授業に定着しつつあり、あたかも「子どもが弾丸バスツアーにただ乗せられている」かのような授業をよく見かけるようになったそうです。「弾丸バスツアー」とは、先生がコースとペースを全て取り仕切るスタイル。けれども、それでは生きたことばの力を身につける練習の時間にはならないといいます。
「勉強だけに限らず、何もかも手取り足取り教えてしまうと、児童生徒が考える力を発揮できる場がなく、人はなかなか上達しません。弾丸バスツアーではなく、修学旅行の班別行動のように、児童生徒が主体的に学習に取り組める場を提供することが大切なのです」
目指しているのは、
「文章を論理的に読み解く力」を身につけられる授業
舟橋教授の研究は、SDGsの4番目の目標「質の高い教育をみんなに」にダイレクトにつながっています。
「日本は、民主主義の国です。民主主義とは、国民一人ひとりの声を大切にすることが、どんなに遠回りで時間がかかっても、そのほうが結局はみんなの幸せにより近づけると信じる政治体制のこと。その機能をまっとうするためには、誰もが議論の作法を身につけ、誰もが望めば高等教育を受けられる環境をつくる必要があります」
今の日本は、大学に進学して初めてアカデミックライティングやアカデミックリーディングを習うのが現状。国民にとっても国語科にとっても、決して好ましい状況だとは言えないそうです。
「文章を論理的に読み解く力やわからないことにじっくり向き合う姿勢は、ゼロからイチを生み出すアイデアを創造するための基礎となるもの。その方法論を、中等教育までに国語科を通して誰もが学べる環境をつくることが、私の研究のゴールであり、ライフワークだと言えるでしょう」
指導した学生たちが成長していく姿を見るたびに、大きな手応えを感じるという舟橋教授。この研究やそこから導き出した方法論を通して、学生たちは将来教員として活躍していくうえで大切なことを学ぶことができます。
「小中高等学校の各段階で、説明文や評論文を読んで悩み、考え、議論することを指導するための方法が会得できます。その結果、学生としての研究能力や教員の卵としての土台が固まり、日本の民主主義を豊かにする学校教育の創造へとつながっていくでしょう」
「教員を目指すなら、
大和大学が一番」と思われるために
中学校で20年間、高校で2年間、教壇に立ってきた舟橋教授。研究の成果を反映しながら、適切な努力を積めば誰もが国語のいい授業が行える道を示すことも、ミッションのひとつだといいます。
「国語教育学は、『国語の先生になりたい』という想いにまっすぐ応える学問です。国語の先生を目指して入学してきた学生たちを満足させることが、私の役目だと言えるでしょう。『教員を目指すなら、大和大学が一番』。そう言われる日が一日でも早く訪れるよう、開学時からずっと頑張ってきました」
舟橋教授の持論は、「生まれながらの教師などいない」というもの。教員になるという強い意志と覚悟さえあれば、どんな人でも努力次第で教員を目指すことができるそうです。
「偉大なプロ野球選手の息子が、全員プロ野球選手になれるとは限りません。才能の有無や向き不向きは、後天的な要素によるところが大きいのです。つまり、自分次第でいくらでも可能性を広げていけるということ。ですから私は、教育の力を信じているのです」
長年、学校教育の最前線で活躍してきた舟橋教授。強い使命感の源は、当時の生徒たちの何気ない一言だったといいます。
「『今年の国語の先生は、ハズレやな』……もしもこんな声が子どもの会話から聞こえてきたら、冷や汗どころではありません。最後には『先生に国語を習えてよかった』と言われる授業をめざして、私は日々、学校現場で実践と研究に打ち込んできました。子どもは自分の意志で教員を選べないわけですから、自分の意志で教職をめざす学生たちには、常日頃から『当たり、と言ってもらえる教員をめざすのは当たり前だ』と説き、高いハードルを課しています」
舟橋 秀晃 教授
広島大学大学院教育学研究科(博士課程後期) 文化教育開発専攻 国語文化教育学分野 修了[博士(教育学)]。日本国語教育学会理事、日本教科教育学会投稿論文審査委員、日本読書学会編集委員(査読者)。
光村図書中学校国語教科書編集委員、大和大学教育実習委員会委員長。
滋賀大学大学院教育学研究科(修士課程)在学中に高校で2年間、修了後は中学校で20年間、教壇に立つ。滋賀大学教育学部附属中学校教諭・研究主任を経て2014年、大和大学教育学部の准教授に就任。2018年に博士号を取得し、同年に教授となる。単著に『言語生活の拡張を志向する説明的文章学習指導─「わからないから読む」行為を支えるカリキュラム設計─』(溪水社2019、科研費研究成果公開促進費)。