

変化するメディアのなかで、
信頼される情報の未来を探る
変化するメディアのなかで、
信頼される情報の未来を探る
岡田 五知信教授
マスメディアの社会的役割と信頼性、
そして表現の自由を考えるメディア論
メディアがどのように公共性や信頼性を担保しながら情報を発信してきたのかを、歴史的かつ社会的に分析している岡田教授。同時に、新聞・テレビ・雑誌などのオールドメディアと、SNSやYouTubeといったニューメディアとの関係性や葛藤にも注目しています。幅広い事例を通して、現代の情報環境における課題と可能性を明らかにする研究。情報があふれる現代社会において、真実を見抜く力を養うためのヒントを示してくれます。

日常で目にするあらゆる
メディアが研究の対象になる
大手出版社で記者として働き、1995年の阪神・淡路大震災やオウム真理教事件の取材を経験した岡田教授。その後、テレビ局に転職し、AD、ディレクター、プロデューサーとキャリアを重ねながら、さまざまな番組制作に携わってきました。現在は、現場の経験で得た知見をもとに、出版や放送を中心としたメディア論などの研究を行っています。
「雑誌やテレビといったメディアが、どのように公共性や信頼性を守りながら情報を発信してきたのか、その仕組みや歴史、社会との関わりを分析しています。例えば、某テレビ局で起きた報道倫理問題、国民的アイドルグループの解散報道、さらにアイドル事務所の性加害問題をめぐるテレビ報道の姿勢など、具体的な事例を通じてメディアと社会の関係を読み解いています」
岡田教授の研究の目的は、情報があふれる現代社会で、人々がメディアの情報をそのまま受け取るのではなく、「なぜこの情報が今報じられるのか」「何が事実なのか」と主体的に考える視点を養うこと。そのために必要な理論や方法の追求に力を注いでいます。
「アイドル事務所の性加害問題で浮き彫りになった“沈黙するテレビ”や“忖度する出版メディア”の存在は、社会の信頼を大きく揺るがしました。こうした現実を踏まえ、メディアの役割や姿勢を改めて問い直すと同時に、消費者が情報リテラシーを高めることは、これからの社会にとって欠かせない課題です」


この研究のおもしろさは、ニュースやワイドショー、週刊誌のスクープ記事はもちろん、X(旧Twitter)やTikTokなど、日常で目にするあらゆるメディアが研究の対象になること。学生たちにも親しみやすく、興味を持ってもらいやすいといいます。
「普段なんとなく見ているニュースやSNSも、『その背景には何があるのか』『なぜこの話題が大きな社会的影響を与えたのか』と考えてみると、社会の構造や価値観を読み解く手がかりになるでしょう」


自分で情報を選び取る体験性が、
ニューメディアの強み
岡田教授は近年、新聞・テレビ・雑誌などのオールドメディアと、SNSやYouTubeといったニューメディアとの関係性や葛藤にも注目しているそうです。
「オールドメディアとニューメディアの特性の違いが顕著に表れたのは、2024年11月に行われた兵庫県知事選でした。現職知事が県議会の不信任決議を受けて失職し、出直し選挙を実施。この選挙では、SNSやYouTubeといったニューメディアの存在感が大きくなり、選挙報道や世論の動きにおいてオールドメディアとの情報の乖離が目立つ結果となったのです」
現職知事が再選を果たしたことで、『SNSの勝利、マスメディアの敗北』などと言われました。しかし岡田教授は、正確にはマスメディアはSNSの体験性に負けたのだと考えています。
「生活者にとって、新聞・テレビ・雑誌は一方的に情報を受け取る受動的なメディアです。一方、SNSは自分で情報を選び取る能動的なメディア。自分が選んだ情報なので、受け手の関心や価値観に合った内容が多くなりやすく、結果として『共感』や『納得感』が強まる傾向があります。その体験性こそが、現代の情報環境におけるSNSの強みであり、マスメディアとの大きな違いだと言えるでしょう」


ただ、「ニューメディアには大きな落とし穴がある」と岡田教授。インターネット上では、自分の興味や考えに合った情報ばかりが優先的に表示され、異なる意見や新しい情報に触れにくくなる“フィルターバブル”という現象が起きています。そのため、自分にとって心地よい情報だけが集まってきてしまうのです。
「自分で情報を選んでいるように見えて、実は私たちはパソコンやスマホに制御されています。それにもかかわらず、自分が選んだ情報だと錯覚しやすいため、『間違いない』と思ってしまいがち。だからこそ、SNSの情報に潜む偏りや誤情報に気づきにくくなってしまいます。その結果、地道な取材を重ねて裏付けを取ることで情報の正確性を高めているオールドメディアよりも、偏りのあるSNSの情報のほうが共感を集めやすくなるという状況が生まれてしまうのです。オールドメディアがさまざまな情報をオープンにし、消費者が自ら情報を選ぶ体験を提供できていれば、“マスメディアの敗北”などと言われることはなかったかもしれません」


真実を見抜く目は、
未来を生き抜くための最大の武器になる
岡田教授にとって、現在の課題は信頼されるメディアとは何かを、実例をもとに具体的に示すことだそうです。
「アイドル事務所の性加害問題について、テレビ各局の対応の違いや、雑誌・出版メディアが果たした役割、そしてそれに対するSNS上の批判などを多角的に検証しながら、メディアの沈黙や偏った報道が、どれほど公共性とかけ離れているのかを明らかにしようとしています」
SNSやYouTubeといったニューメディアの台頭により、現代では「テレビ離れ」や「出版不信」が加速しています。そんな状況のなか、岡田教授の研究のゴールはどこにあるのでしょう。
「メディアには社会的責任があることを理論的かつ実証的に示し、その再生の道筋を提示することがゴールです。例えば、某テレビ局で起きた報道倫理問題に象徴されるような、視聴者と放送局の信頼関係の再構築や、某アイドルの解散報道に潜むメディア統制の構造を明らかにすることが長期的な目標です」


「出版とテレビという二つのメディアで培った経験を若い世代に伝えたい」という想いこそが、岡田教授の研究の原動力です。自身の知見を通じてオールドメディアの存在価値を改めて示し、その重要性を次世代に伝えることを目指しているそうです。
「学生たちは実際の報道を分析しながら、社会的トピックに“自分ごと”として向き合う力を養うことができます。その経験を通じて、メディアの情報を“読み解く力”や、誰が何のために報じ、何が報じられていないのかを考える力が身につくのです。そして、目の前のニュースをただ受け取るだけでなく、『なぜこう報じられたのか』『何が語られていないのか』と自ら問いを立てる姿勢を持つことが、さらに理解を深める力へと深化します。情報があふれる現代社会だからこそ、真実を見抜く目は未来を生き抜くための最大の武器になるのです。」



岡田 五知信 教授
大学卒業後、大手出版社に就職。有名週刊誌の記者として、現場の第一線で活躍する。その後、テレビ局に転職し、バラエティをはじめ、さまざまな番組の制作を担当。編成や制作会社の立ち上げにも携わる。退職後、関東学院大学経営学部の客員教授などを経て、大和大学へ。