

「創造的復興」や都市養蜂を通して
社会課題を解決し、持続可能な未来を創造
「創造的復興」や都市養蜂を通して
社会課題を解決し、持続可能な未来を創造
服部 篤子教授
持続可能な地域経済モデル開発と
ソーシャルイノベーションについて
服部教授は、地域課題を解決する持続可能な経済モデルの構築とソーシャルイノベーションを主な研究テーマとしています。阪神・淡路大震災をきっかけに、NPOの制度化と普及が重要だと痛感。多様な価値観を受け入れ、創造的復興を進めることで地域協働を促し、持続可能な社会づくりにつなげていくべきだと考えています。また、都市養蜂の研究と実践を通じて、地域活性化やコミュニティ形成にも貢献しているのも特徴です。

災害復興に関する関心や経験をきっかけに、
地域コミュニティに注目
早くから、地域の課題をビジネスの力で解決しようとする社会起業家やソーシャルビジネスなどの新しい取り組みに注目してきた服部教授。その仕組みを活かした持続可能な地域経済モデルの構築と、その広がりを目指したソーシャルイノベーションの研究に取り組んでいます。
「広告会社に勤めていた頃、社会人院生として国際公共政策を学び、その後は当時まだ日本でほとんど知られていなかった、NPOの普及活動に注力してきました。そんななか、阪神・淡路大震災が発生。行政の対応が追いつかず、多くの市民やボランティアが自発的に支援活動を行っている被災地の様子を目の当たりにし、NPOの制度化と普及の重要性を痛感しました」
阪神・淡路大震災が発生した1995年は、「ボランティア元年」と言われています。震災をきっかけに、それまで一部の限られた人たちの活動とみなされていたボランティアが、一気に社会に広く認知されるようになりました。この出来事を境に、日本のNPO法制の整備も進み、1998年には「特定非営利活動促進法(NPO法)」が施行され、民間の公益活動を支える仕組みが本格化していきます。
「NPOを世の中に広めるにはどうすればいいかを考えたとき、研究対象にするという方法を思いつきました。そうすれば、学生を通じて社会にNPOの存在や役割を伝えることができ、学問としてきちんと位置づけることで、その活動の価値を社会に認めてもらえるのではないかと考えたのです」


それから30年近い時間を経て、NPOの存在は広く認知されるようになりました。ただ、社会のさまざまな課題を解決し、未来の社会を構築していくためには、一人ひとりがこれからの社会について考え、積極的に参加することが求められているそうです。
「そのための制度づくりや官民連携の促進は、公共政策学における重要なテーマだと言えるでしょう。例えば、社会起業家や非営利組織といった新たな政策の担い手に注目が集まり、これらを対象とした事例研究や制度研究が進められてきました。私自身も、災害復興への関心や経験をきっかけに、地域コミュニティに焦点を当て、持続可能な地域経済モデルの開発に取り組んでいます」


「創造的復興」とは、“人”と“協働”を通じて未来をつくること
服部教授は2021年に『復興にみる地域イノベーションの担い手たち─新たな地域経済構築の可能性─』という論文を発表。2011年に起こった東日本大震災の復興の現場では、住民が主体となって協力し合いながら、新しい地域の取り組みやイノベーションが生まれました。そうした事例をもとに、これからの地域経済をどのように再構築していくかについて考察しています。
「阪神・淡路大震災の際、単に街を元の状態に戻すのではなく、新しい価値を生み出す復興を目指す、『創造的復興』という言葉が生まれました。東日本大震災でも、『創造的復興』の考え方が重視されたのです」
被災地が「創造的復興」を目指すなかで、いくつかの課題が見えてきたと服部教授は話します。
「まず、地域やコミュニティがさまざまな価値観や知識を素直に受け入れるのは、決して簡単なことではありません。また、異なる専門性や考えを持つ人たちが協力してネットワークを築くのも、とても難しい問題のひとつです」


ただ、異なる考えや知識が集まることで新しい発見やアイデアが生まれやすくなり、人と人とのネットワークが地域経済に変革を起こし、社会起業家がその変化を推進する役割を果たせることもわかったそうです。
「同じ価値観の人ばかりが集まっても、新しい発想や変化は生まれにくいものです。自分とは異なる意見にしっかり耳を傾け、相手を理解し、手を取り合うことが大切。『創造的復興』とは、“人”と“協働”を通じて未来を共に創り上げることだと言えるでしょう。異なる価値観やカルチャーを受け入れながら、地域の住民が中心となってネットワークを広げることで、地域の新しい変化を生み出す担い手が育ち、持続可能な地域社会の基盤が築かれていくのです」


都市養蜂は、新しい持続可能な
地域経済モデルの好例
都市部でミツバチを飼育する都市養蜂も、研究テーマに掲げている服部教授。単にハチミツを採るだけでなく、環境教育や地域コミュニティの活性化にもつながる取り組みとして高い注目を集めています。
「社会起業家の研究を進めるなかで、利益と社会貢献が両立可能であることを多くの企業の方々に知ってもらいたいと考えていたところ、NPO法人『銀座ミツバチプロジェクト』と出会いました。ビジネスとして利益を上げながら、周囲の意識や行動の変容を促し、社会に新しい価値を提供している点に感動。研究を進めるうちにのめり込み、以前勤務していた大学時代に自らも都市養蜂を始めました」
服部教授によると、都市養蜂を行うことでミツバチから多くの学びを得ることができたそうです。ミツバチは人と人をつなぎ、さらに関わる人々に大きな変化をもたらしたのだとか。
「ワークショップを開催することで、地域の子どもたちとのつながりが生まれました。また、都市養蜂に参加したことをきっかけに、NPO法人を立ち上げたり、地域貢献活動を始めた人もいます。都市養蜂は、ソーシャルイノベーションの入り口として大きな役割を果たしていると言えるでしょう。人々の意識や行動の変容を促し、ネットワークが広がる点などから、都市養蜂は非常に興味深く、新たな持続可能な地域経済モデルと考えられます」


都市養蜂を単なる研究対象として捉えるだけでなく、自らも養蜂に取り組む服部教授。ゆくゆくは、大和大学オリジナルのハチミツを商品化したいと考えているそうです。
「島根県の萩・石見空港には空港内に養蜂場があり、そこで採れたハチミツを販売しています。こうした取り組みを通じて、地域活性化につなげることも可能。地域ごとに咲く花の種類が異なるため、採れるハチミツにはその土地ならではの風味や香りが生まれるのも興味深い点です。ミツバチは地方創生の立役者として、大きな可能性を秘めていると言えるでしょう」



服部 篤子 教授
大阪大学大学院国際公共政策研究科修了。広告会社に勤めながら、社会人院生として国際公共政策を学ぶ。阪神・淡路大震災を機に、NPO研究の普及を目指す総合研究大学院大学のスコーププロジェクトに参画。その後、同志社大学政策学部教授などを経て、大和大学へ。