川崎重工の常務取締役として技術部門を統率され、現在は、同社顧問、及び、2つの公益財団法人「新産業創造研究機構」「ひょうご震災記念21世紀研究機構」の理事長などを務めておられる牧村実さんを講師に迎え、10月23日、政治経済学部1年生を対象にした実学講座が開催されました。
今回の講座では、「トップブランドを目指す」「テクノロジーの頂点を目指す」「グローバル企業となる」という川崎重工の経営思想を理解するために、以下の4つの開発事例について紹介いただきました。
1.総合技術力を結集し、テクノロジーの頂点を目指す ~ モーターサイクル「Ninja H2」
フラッグシップモデルとなる当製品には、「パワー」「操縦性」「環境性」など様々な要素について最高を求められます。これらの要素は相反関係にあり全てを満足させることは大変難しいとのことですが(パワー向上→環境性能悪化 等)、川崎重工が航空機・航空エンジンや環境・エネルギーシステムなど多種多様なフィールドで培った高度な技術を統合(シンセシス)することで困難な課題を解決し、Kawasakiブランドを牽引するマニア垂涎のモデルが誕生しました。
2.パートナーと協力し、難題を乗り越える ~ ドクターヘリ「BK117」
ヘリコプターは、救難、医療、輸送など様々な用途で活躍する製品ですが、国内では「ドクターヘリ」として広く知られるBK117ヘリコプターを、欧州エアバス社と共同開発しました。開発にあたっては、川崎重工は「機体設計」技術など、エアバス社は「高性能アビオニクス」技術など、お互いの強みを活かすことで高い性能と信頼性を実現しました。その後も、常に革新的な改良を加え続けることで、数10年に渡るベストセラー機となっているそうです。
3.社会課題に挑戦し、未来を切り拓く(1) ~ 屋内配送用サービスロボット、手術支援ロボット
ロボットは生産現場などの産業分野で欠かせない製品ですが、最近では医療現場での利用が急速に拡がっているそうです。高齢者や患者の増加に対して、医療従事者は不足傾向にありますが、この課題解決を目指す、川崎重工の高度なロボット技術が紹介されました。そのひとつが、患者から採取した検体を運ぶ屋内配送用サービスロボット「FORRO™」です。これにより面倒な配送作業から解放され、本来、人が行うべき医療業務に専念できるようになります。さらに、高精度なロボットアームを使い低侵襲な内視鏡手術を実現する画期的な手術支援支援ロボット「hinotori™」も紹介されました。このロボットは、単なる手術の支援に留まらず、患者とは異なる場所にいる専門医が手術を行う「遠隔ロボット手術」も目指しています。
4.社会課題に挑戦し、未来を切り拓く(2) ~ 国際水素サプライチェーン
「エネルギー問題(資源の海外依存)」「地球環境問題(CO2排出による温暖化)」は、先送りできない社会課題となっていますが、これらの問題を同時に解決できる切り札の1つが「水素」といえます。ただし、「大量・安価・安定供給」が必須であり、このためには水素を最適地で「つくる」→「はこぶ・ためる」→「つかう」というサプライチェーンを構築する必要がありますが、川崎重工は、液化天然ガスで培った高度な技術を使い、この地球規模の「水素サプライチェーン」の構築を、世界に先駆けて実現しようとしています。そして、単なる技術開発だけではなく、国内外のメジャー企業・政府などと連携しながら、水素利活用に関わる「国際標準ルール」作りをリードすると共に、液化水素運搬船などのグローバルスタンダードを取得しているそうです。このように、「仲間に入れてもらえる」側ではなく「ルールと仲間づくり」を主導する側に立つことの重要性を説かれました。
以上の牧村さんの講義に対して、学生からの質問も次々と飛び出しました。
「現在のロボット分野でのAI導入状況と今後は?」という質問に対し、牧村さんは「AIは重要な役割を担いつつあり、将来的には熟練技能者の不足を補うようになるだろう。これからはAI技術が不可欠」と説明されました。また、「水素事業での国際的パートナーシップ構築は難しかったのでは?」との質問には、「粘り強い努力が必要だった。しかし、一度、仲間になると、強力かつ信頼できる味方になってくれた」と国際メジャーとの連携の重要性を改めて説明されました。さらに、「水素ネルギー実用化に向けての重要ポイントは何か?」との質問には、「コストを下げ水素利用を促進すれば、日本の”エネルギー安全保障“を確立することができる」と応え、国際水素サプライチェーン構築への大きな未来図を示されました。
