

難解でニッチな研究テーマに挑み、
目に見えない図形を数式で解明
難解でニッチな研究テーマに挑み、
目に見えない図形を数式で解明
塚本 千秋教授
高次元における、
球面の新たな性質を見つける研究
塚本教授の専門は、微分幾何学。「高次元球面における標準計量のツォル変形の分類」といった、難しいテーマについて研究を行っています。一言でわかりやすく言えば、4次元、5次元、6次元といった目に見えない高次元において、球面の新たな性質を見つける研究。実は、塚本教授の取り組みはCTスキャンの原理にも通じるものがあります。

数式を使えば、
目に見えない高次元の図形を頭のなかに描ける
平面や空間における曲線や曲面などの性質を、微分積分学の方法を応用して研究する微分幾何学。その専門家として、塚本教授は長年にわたって第一線で活躍しています。
「微分幾何学のおもしろいところは、数式を用いて目では見えない世界に触れられること。4次元、5次元、6次元といった高次元の図形を、自分の頭のなかに描くことができるのです」。
塚本教授が携わっているのは、各点において点対称を持つ空間として定義される、コンパクト対称空間に関連した研究です。その代表的なものが、球面。数式を用いれば、目に見えない高次元の球面についても考えることができるそうです。
「球面は、原点からの距離が一定である点の集まりで、対称性が高い形状。一点から出発して円の上を真っ直ぐに進むと、グルッと一周して元に戻ってきます。球面のカタチを少しゆがめても同じ性質を保つことができるということを、20世紀初頭にツォルという数学者が発見しました。私は、そのゆがめ方がどれくらいあるのかについて研究しており、変形の分類を完成させたいと考えています」。


コンパクト対称空間に関連した研究は、数理科学のなかでも非常にニッチな領域です。現在、この研究に関わっている研究者はほとんどいません。そもそも、塚本教授がコンパクト対称空間の世界に興味を抱くようになったきっかけは、今から40年以上も前のことだそうです。
「対称空間というのは、球面だけではありません。射影空間もその一つで、さらに射影空間には実射影空間・輻輳射影空間・4元数射影空間・ケーリー実射平面というのが存在します。私は博士論文で、それらの形をゆがめると、一点から出発して真っ直ぐに進んでも、球面のように元に戻ってくることができないことを証明しました。つまり、対称空間で変形しても元に戻ってくることができるのは球面のみ。だから私は長年、その変形の分類を完成させることにこだわり続けているのです」。


実は、病院の検査で使われる
CTスキャンの原理に通じる研究
球面のようなシンプルな図形でも、その性質についてまだわかっていないことがたくさんあるそうです。塚本教授によると、それを追究するのがおもしろいのだとか。
「私の研究分野は、難易度が非常に高いです。しかも、球面の新しい性質を見つけて、変形の分類を完成させることができたとしても、それが何かに活かせるかどうかはわかりません。数学の研究の成果が社会に影響を与えるのは、10年後、100年後というのが一般的ですからね」。
実社会に応用できる研究を手がけている、数学の研究者はたくさんいます。ところが、塚本教授の研究はまったくそうではないそう。ただ、何に役立つかわからないからこそ、夢があるといいます。
「非常にニッチで難しい研究ということもあって、学生にその内容や魅力をかみ砕いて伝えるのに毎回苦労します。ただ言えるのは、数式を用いることによって、目に見えない図形について探求できることのおもしろさ。これを知ることによって、自分が住んでいる世界を違った見方で捉えられるようになるでしょう」。

塚本教授が心血を注いでいるのは、実社会に応用するのが難しい研究。けれども実は、病院の検査装置として知られる、3次元のCTスキャンと深い関係性があるといいます。
「球面の計量で、真っ直ぐに進むと元の地点に戻ってくるものをZoll計量と呼びますが、2次元球面の場合に最初にその全体を調べようとしたフンクは、球面の上の関数を大円上で積分するとどうなるかをまず考えました。その結果を、平面上の関数を平面の直線上で積分するとどうなるかに置き換えて、ラドン変換と呼ばれるものを考えたのがラドン。すべての直線上での関数の積分がわかると元の関数が復元できるというもので、これが身体を輪切りにしなくても体内の様子がわかるCTスキャンの原理です。今は夢想にしか過ぎませんが、もしかしたら私の研究がCTスキャンの技術改良に役立つことがあるかもしれません」。



この研究を通して、
物事の本質を見極める姿勢が身につく
塚本教授の研究は、本人ですら説明が難しいほど難解なもの。ただ、学生に説明する際は、「メビウスの帯」を例にあげるなどして、わかりやすく魅力を伝える工夫をしているそうです。
「『メビウスの帯』とは、帯状の長方形の片方の端を180°ひねり、他方の端に貼り合わせた形状の図形のこと。2次元だと表裏が存在しないのですが、3次元だと表裏が存在し、4次元になるとまた表裏がなくなります。次元が変わると、図形の性質が変わる。そういった点におもしろさを感じる方は、この分野の研究に向いていると思います」。


また、非常に難解なテーマに真っ正面から向き合うことで、物事の本質を見極める姿勢が身につけられるといいます。
「学生には、『解き方を覚えれば問題が解けるようになる』というパターンマッチングの勉強ではなく、『なぜその解き方が有効なのか』を深掘りして考えるような勉強の仕方をしてもらいたいと考えています。私の研究は『解き方を覚えれば答えがわかる』というシンプルなものではないので、思索を深める習慣をつけるには最適だと言えるでしょう」。
物事の本質を見極めることは、勉強や研究だけでなく、ビジネスの世界でも重要です。塚本教授のもとで研究に携わることで、学生たちは社会人として生きていくための大きな武器を手に入れられるはずです。
「例えば、ビジネスの成功ノウハウがあるとします。単にその通りに行動を起こす人と、ノウハウの本質を追究して理解を深めてから行動を起こす人とでは、結果が違ってくるでしょう。私と一緒に難題に挑むことで、物事の本質を見極める術を手に入れてください」。



塚本 千秋 教授
京都大学で数学を専攻した後、京都大学理学部数学教室の助手や、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科の准教授、教授などを経て大和大学へ。長年にわたって、「高次元球面における標準計量のツォル変形の分類」という非常に難関なテーマに挑み続けている。