

すべての人が安心、安全、快適に
暮らせる建築とまちづくりを
すべての人が安心、安全、快適に
暮らせる建築とまちづくりを
北本 裕之教授
建築環境工学や居住安全工学
をもとにした建築のあり方
北本教授は、建築環境工学の観点からモノの視認性や色彩イメージに関する研究に携わっています。また、居住安全工学に基づき、地震・津波・台風・集中豪雨といった自然災害時における住宅の構造安全性、減災に向けた避難計画、被災後の復興に関する研究にも従事。人々が、より安心、安全、快適な暮らしを実現するうえで欠かせないテーマを追究しています。

高齢者や弱視者にとって、
良好な“視環境”を目指して
「建築学=設計(デザイン)」というイメージを持つ人も多いかも知れません。いい建築・まちづくりを実現するためには、建築の各分野である意匠・構造・施工・材料・環境・設備・歴史(文化)・防災・法規等、さまざまな知識が必要です。それらを自らの価値観を基に統合化していくのが設計(デザイン)という作業です。北本教授の研究テーマの一つは、建築環境工学。例えば、高齢者や弱視者にとって、良好な“視環境”を実現するための研究に携わっています。
「白色の背景に黒色で書かれた文字、黒色の背景に赤色で書かれた文字、黄色の背景に薄い黄色で書かれた文字とでは、読みやすさがまったく異なります。こういった色の組み合わせのほか、文字の大きさや周囲の明るさなども、モノの見え方に大きく影響を与えるのです」。
実は、“視環境”に配慮した工夫は、私たちの身近なところにいっぱい。公共スペースなどで、階段の先端部分の素材や色が異なっているのを見たことがある人も多いでしょう。これには、スリップを防止するだけでなく、階段の段差を意識しやすくする効果があるそうです。
「JR新大阪駅の点字ブロックの両側に黒い帯がついているのも、“視環境”に配慮された工夫の一つ。弱視の方にとって、点字ブロックが見やすいという効果があります」。


さまざまな条件においてモノの視認性がどう変化するのかを実験し、数値化して設計やデザインに応用する研究を行っている北本教授。また、それに関連して色彩イメージの研究にも携わっています。
「言葉と色彩には、とても密接な関係があります。例えば、日本人の多くは『女』と言えば赤色をイメージするでしょう。けれども私たちの研究結果では、イギリスでは紫色や赤紫色をイメージする人が多いことがわかりました。このように、色彩イメージというのは国や文化、習慣によって異なるのです。言葉と色彩のイメージの関係性を明らかにし、建築環境における配色計画に活かしていきたいと考えています」。


防災や減災の観点から、
まちづくりの最適化につながる調査、分析を実施
建築環境工学と並ぶ北本教授の研究テーマが、居住安全工学です。自然災害における被害実態を、空間軸(地域性)と時間軸(時系列)といった2つの軸で分析し、今後の住宅の構造安全性を高める提言を行っています。
「阪神淡路大震災で甚大な被害を受けた神戸市と淡路島の北淡町とでは、被害状況が大きく異なりました。この違いは、都会と田舎という空間軸の相違によるものだったと言えるでしょう」。

研究では、実際に起こった自然災害の被害実態の調査だけでなく、これから起こりうるであろう自然災害を想定して、防災や減災の観点からまちづくりをしていくというフィールドワークも行っています。
「近い将来、南海トラフ地震が必ず発生すると言われています。大規模な浸水被害が予想されている高知市御畳瀬地区で、建物の老朽度や構造、階数のほか、道路幅員や避難場所、避難経路の現況について調査しました」。
それらに加えて、北本教授は避難時の歩行速度や地形の高低差などについてもリサーチ。あらゆる観点から調査と分析を行い、地震発生直後の津波被害を軽減させるために、新たな緊急避難所の配置計画を提案しました。
「緊急避難所として指定されている場所までの歩行速度を測ると、避難するのが難しい方が多いだろうということが判明。また、高知市御畳瀬地区は細い路地が多く、地震で建物が倒壊した際に通れなくなる道がたくさんあります。そういった点を考慮したうえで、どこに緊急避難所を配置するのがベストかという提言を行いました」。



いい建築・まちづくりを実現するためには、
建築の各分野に目を向けることが大事
北本教授の研究室では、最先端のさまざまな機器や装置に触れられるのが大きな特長。空間の明るさを図る光度計のほか、赤外線サーモグラフィカメラやドローンを活用することもあるそうです。
「ドローンを使えば、自然災害発生時の被害状況をスピーディに把握することが可能になります。大和大学には最先端の機器や装置が揃っているので、効率よく研究を進めることができるでしょう」。
最先端の機器や装置を駆使し、建築環境工学と居住安全工学の両面から、さまざまな研究に携わっている北本教授。目指しているのは、誰もが安心、安全、快適に過ごせる建築・まちづくりです。
「建築環境工学の研究を通して、高齢者や弱視の方の安全性や利便性を高めることは、すべての人々の生活の質(QOL)を高めることにつながります。また居住安全工学の研究は、地震をはじめとした自然災害が多いなか、防災や減災に直結。たくさんの人々に貢献できる研究なので、高いモチベーションで取り組むことができます」。


学生時代、北本教授は設計に興味を抱いていました。ところが、キャンパスに竪穴式住居をつくったことがきっかけで、建物を取り巻くさまざまな要素に関心を抱くようになったそうです。
「キャンパス内の竪穴住居に1週間ほど泊まり込んで生活をしてみて、建物というのは設計やデザインだけでなく、安全性や機能性、経済性、さらには歴史や文化をも考慮してつくらなければいけないということに気づきました。それぞれのいいところをうまく組み合わせながら最適解を導き出していくことが、いい建築・まちづくりにつながっていくと考えています」。



北本 裕之 教授
大阪市立大学大学院生活科学研究科生活環境学専攻修了。美作大学生活科学部福祉のまちづくり学科の助教授や准教授を経て、大和大学の教授に就任。建築環境工学と居住安全工学をテーマに、環境や安全性を考慮した建築に関する研究を進めている。