

次世代電力システムの最適化を実現し、
再生可能エネルギーのさらなる普及に貢献
次世代電力システムの最適化を実現し、
再生可能エネルギーのさらなる普及に貢献
田岡 久雄教授
次世代電力システムの
解析・制御・運用技術の確立
発電所でつくられてから、送電線や変電所を経由して、企業や家庭に届けられる電気。再生可能エネルギーの普及にともない、電気を運ぶうえで欠かせない電力システムの安定運用には、さまざまな課題が生まれています。田岡教授の研究室では、それらを解決に導く研究に注力。再生可能エネルギーの普及拡大を目指すうえで、非常に重要な役割を担っています。

再生可能エネルギーの普及を阻む、
次世代電力システムの課題に挑む
太陽光・風力・地熱・水力など、自然エネルギーを活用して発電する再生可能エネルギーは、CO2の排出量が少ないクリーンなエネルギー。日本でも、積極的にその導入が進められています。環境エネルギー政策研究所が発表した『2020年の自然エネルギー電力の割合(暦年速報)』によると、2020年の日本の発電量のうち再生可能エネルギーは20.8%。その割合は、年々増えています。
「かつての電気の流れは、電力会社から企業や家庭への一方通行でした。ところが、再生可能エネルギーが広がったことに加えて、エネルギー売買が自由化されたため、現在は非常に複雑になっているのが現状。しかも、再生可能エネルギーの普及に比例して、中小規模の発電所も増えてきました」。

こうした流れが加速したことから、従来の電力システムでは立ち行かなくなってきたと田岡教授。再生可能エネルギーの普及にともなって、電力システムの安定運用にはさまざまな課題が生じているそうです。
「例えば、日中に太陽光発電の電力を使う場合、日が沈むと電力が足りなくなるでしょう。すると、別のエネルギーへの切り替えをどうするのか、という問題が出てきます。また太陽光発電は直流なので、電源として使用するには交流に変換する必要があるのですが、そのためには変換器が欠かせません。ただ、変換器は出力調整の幅がそれほど大きくなく、電力量がある一定量を超えるとストップしてしまうといった課題もあります」。
地球環境を考えれば、再生可能エネルギーの普及は喜ばしいことですが、その安定供給を実現させるにはまだまだ多くの課題があります。それらを解決するための研究にあたっているのが、田岡教授です。
「電力会社の使命は、企業や家庭に電気を安定供給すること。そんななか、再生可能エネルギーのさらなる普及に向け、次世代電力システムの解析・制御・運用技術の研究を行っています」。



エネルギーに関する
SDGsの目標達成に欠かせない研究
太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの発電量は、天候に左右されやすいというデメリットがあります。ところが、ICT技術を活用することで電力を安定的に供給することが可能に。田岡教授は現在、その研究に力を注いでいます。
「電力会社はネットワークの周波数と発電所の出力を見ながら、その時々の消費量に合わせて発電所を制御しています。近年はコンピュータネットワークと情報処理技術の発展により、電気を送る側も使う側も、電力の流れをきめ細かく制御できるようになりました。このように電力の無駄をなくす技術を総称して、『スマートグリッド』と言います」。

また、再生可能エネルギーを大量導入するにあたって大きなネックになっている、慣性問題の解決にも注力。具体的には、再生可能エネルギー電源に慣性力を持たせ、電力系統の安定化を実現するグリッドフォーミングインバータの研究を進めています。
「突発的な事故が起こった際に電気を供給し続けるためには、タービンが回転し続けるための慣性力が欠かせません。ところが、太陽光や風力は慣性力がないので、万が一のときに送電がストップしてしまうリスクが高いのです。そういった事態を防ぐために、仮想同期発電機や同期化力インバータによる、電力系統の安定化を目指しています」。
いずれの研究も、再生可能エネルギーのさらなる普及拡大に欠かせないもの。田岡教授の取り組みは、再生可能エネルギーの未来に大きな影響を与えると言えるでしょう。
「わかりやすく言えば、私が取り組んでいるのは再生可能エネルギーの電力システムの状態を解析し、効率的な運用を行う方法を導き出す研究。エネルギーに関するSDGsの目標達成を目指すうえで、欠かせないものだと言えるでしょう」。



再生可能エネルギーを含めた
電力のさらなる安定供給を目指して
国の研究機関の研究員としても活動し、最先端の電力プロジェクトに加わっている田岡教授。さらには、JICA(国際協力機構)の電力運用に関する技術指導プロジェクトにも参画しています。研究と並行して、実際のフィールドで活動を行なっているため、田岡教授のもとでは最先端の知識やスキルを吸収できるのが魅力です。


資源が乏しい日本は、エネルギー原料の多くを輸入に頼っています。もしも戦争が起きたら、石油や天然ガスの供給がストップしてしまうかもしれません。かといって、今の日本では原子力発電を推進することはできないでしょう。
「そんななか、日本のエネルギーの未来を考えるうえで、再生可能エネルギーは必要不可欠な存在です。その普及の一翼を担えるのが、この研究の醍醐味。次世代電力システムの解析・制御・運用技術の確立を通して、世の中の根幹を支えているという実感を味わうことができます」。
長年の慣習を見直して既存の電力システムを変革していくには、まだまだ大きな壁が立ちはだかっています。そんななか、田岡教授の研究は次世代電力システムの新スタンダードの構築につながっているのです。
「研究の最終的なゴールは、再生可能エネルギーを含めた電力を、世の中に安定的に供給できるようにすること。私たちの挑戦は、まだまだ続きます」。



田岡 久雄 教授
東京大学大学院工学系研究科電気工学専門課程修士課程修了後、大手電機会社で電力システムに関する最先端のコンピュータ技術の開発に携わる。2003年退職後、福井工業大学・福井大学の教授を経て大和大学へ。業界で権威ある「澁澤賞」や「電気保安功労者経済産業大臣表彰」を受賞。