

AIによる創作活動の研究を通して、
人間の創作活動の仕組みを解明していく
AIによる創作活動の研究を通して、
人間の創作活動の仕組みを解明していく
高田 司郎教授
最新のディープラーニング(深層学習)を
用いたAIの創造活動
近年、めまぐるしい勢いで発展を遂げているAI。特にディープラーニング(深層学習)はAIを劇的に進化させ、人間にしかできないと思われていた作画・作文・作曲などの芸術分野にまで進出しています。最新のディープラーニングを用いたAIによる創造活動など、ホットな研究に取り組んでいるのが高田教授の研究室です。

2つのAIが競い合って精度を高めていく、
ディープラーニングの進化形「GAN」
ディープラーニングの進化形として、近年高い注目を集めている技術があります。「GAN(Generative Adversarial Networks=敵対的生成ネットワーク)」と呼ばれるもので、「生成するAI」と「それを判定するAI」を競わせることで、精度を向上させていく技術のことです。
「人に例えると、本物そっくりの偽物をつくる人と、それが偽物か本物かを判定する人がいるイメージ。『本物と同じような画像をつくったけど、どうだ!』『まだまだそのレベルではダメだ!』とお互いが競い合いながら、自分たちで画像のクオリティを高めていくのです」。
「GAN」の技術を用いれば、手書きの数字を生成したり、ウマの画像をシマウマに変換したりできるほか、ある人物の画像をベースに仮想人物の画像を生成することも可能。さらには、動画の人物の顔を別人の顔に差し替えることもできます。
「この技術のすごいところは、画像や動画が本物か偽物かを人間が見破るのが難しいこと。大きな影響力をもつ人物があたかも実際に話しているような、フェイクニュースをつくることだってできるのです」。
高田教授のもとでは、「GAN」の技術を基礎から学び、実物と区別がつかないほどリアルなフェイク画像や、実在の人物から仮想人物の動画を生成するといった研究に携わることができます。
「この技術がさらに進化していけば、仮想の人物が公共の場に出現することもあり得るでしょう。テレビの人気アナウンサーが実はAIが創作した架空の人物、という時代がやってくるかもしれません」。


AIの創作活動の影響を受け、
人間の創作活動が活性化される可能性も
最新のディープラーニングに触れられる高田教授の研究は、人間にしかできないとされる創造活動の領域にも及んでいます。芸術作品の特徴をAIに自動的に学習させ、新たな作品を生成できるようにするというものです。
「写真をもとに有名画家のタッチで絵画を描く、大量の小説をインプットさせて独自の小説を書く、さまざまな音楽を吸収させてオリジナルの音楽を作曲するなどが、その一例。人間にしかできないと思われていた作画・作文・作曲といった芸術分野において、AIの可能性に挑んでいます」。
また、深層強化学習を用いたゲームの研究にも着手。誰もが知っている人気ゲームが、自力で強くなっていく方法について研究を行っています。そのほか、カメラを搭載したプラモデルのクルマの自動運転の研究など、楽しみながら最先端の技術を学ぶことができるでしょう。
「近い将来、AIが創作した芸術作品やゲーム、アニメなどを、人間が普通に楽しむという時代が来るかもしれません。そんななか、私の研究室では自分たちの手で、AIによる作品を生み出せるチャンスがあります」。

AIによる創作活動は、今後10年でさらに劇的に進化していくことが予測されます。もしかしたら、私たちはAIに太刀打ちできなくなり、人間の創作活動は衰退してしまうかもしれません。ところが高田教授によると、AIというライバルが現れることが、人間にとって好影響を与える可能性もあるといいます。
「将棋界では、AIを搭載した将棋ソフトで腕を磨くのが、もはや当たり前になっています。19歳6ヵ月で五冠を達成した若手の人気棋士が、AIで将棋の研究をしているというのは有名な話。AIの積極的な活用によって、棋士のレベルは全体的に高くなったと言われています。おそらく、芸術やゲーム、アニメといった分野でも、AIによって人間の創作活動が活性化されるでしょう。クリエイターのレベルが、さらに高まることが期待されています」。


AIが人に近づくことで、
人間をより深く理解するヒントが見つかる
1980年代から老舗IT企業で先進的な研究に携わってきた高田教授によると、AIはもともと「人間を知るための技術」だったそうです。
「ところが日本はある時期から、音声認識や画像認識などの技術を通して、『世の中の役に立つモノをつくればいい』という方向にシフトチェンジしました。そんななか、私はAIによる創作活動の研究を通して、人間の創作活動の仕組みを解明していきたい。それが、研究を進めるうえでの大きなモチベーションになっています」。

そもそも、AIは確率統計的なアプローチで答えを導き出すという仕組み。コミュニケーション一つとっても、相手が発した言葉そのものを分析するため、例えば「えー」という言葉から人間の驚きの気持ちを読み取ることはできません。
「いっぽう、人間のすごいところは会話の流れのなかから、言葉の裏側の気持ちを読み取れる点。今後、創作活動の活性化によってAIがより人に近づいていくことで、人間をより深く理解するヒントが見つかるのではないでしょうか」。
例えば、それはどういったものかという質問に対して、「私自身もわかりません」と即答する高田教授。
「AIの研究を通して、人間の何を知れるのかがわからないからおもしろい。ゴールがないからこそ、最先端の技術を駆使して、常に新しい挑戦を続けることができるのです」。



高田 司郎 教授
大阪大学基礎工学部情報工学科卒業。1999年、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程修了。老舗IT企業などで働いたのち、2002年に福岡工業大学情報工学部管理情報工学科の助教授に就任。近畿大学理工学部情報学科の教授を経て、大和大学に着任する。